「頑張って、って言っちゃダメみたいだよ」
「うつ病は心の風邪」
うつ病が、世間に広く認知されてからある程度経ちました。
そして、様々な意見が飛び交う様になりました。
上記のセリフは、メディアでも実際にもしばしば耳にする言葉です。
しかしながら、近しい人たちがうつ病である私は声を大にして言いたいのです。
「全部、嘘です。間違っていますよ!風評被害に気を付けて下さい。」と。
勿論これは、私の一意見です。
それらの言葉が闘病の役に立った方もおられる事でしょう。
しかしながらうつ病は、まさに千差万別です。
発症の原因、出方、言われて嬉しい事嫌な事、全く違います。
例えば1つ目の「頑張ってって言っちゃダメ」には、何人もが違和感を覚えています。
1番困るのが、「頑張って」と言わなければ良いのだ。
と安易に考えて、別の言葉でプレッシャーを与える人達です。
「頑張って」がダメなのではありません。
限界まで心身ともに消耗している患者に罪悪感を抱かせたり、圧力をかけたりする事が、負担になるのです。
これは、うつ病に限らず他の多くの病に苦しむ患者さんにも言えるのではないでしょうか。
誰に、いつ、どんなシチュエーションで言われたかによって同じ「頑張って」でも全然違います。
例えば、休職して入院中の患者がいるとします。
そこにお見舞いに来た、風邪も引いた事がない皆勤自慢の上司が大声で「頑張って」と言う場合と、
同室の余命幾ばくもない癌のおばあちゃんが細い腕を伸ばして握りしめながら
「頑張って」言う場合では全く違う印象ですよね。
じゃあ何を言っちゃダメで何が大丈夫なんでしょうか。私にもわかりません。
本人に聞くのが1番です。
後は、相手を思い遣る気持ちがどれだけあるかが大切です。
ですので「頑張って」に縛られてコミュニケーションが妨げられる事も
「頑張って」を安易に避けて独り善がりの自己満足に陥る事も、是非避けて頂きたいと思います。
次に「うつ病は心の風邪」について申し上げます。
心配したり、恥ずかしがったりしなくても大丈夫なんですよ。
と言うメッセージなのでしょうが。これは意外に患者さんを傷つける言葉なのです。
「風邪」=「たいした事ない」=「自己管理不足」=
「それくらいで仕事や家事を休んではならない」=「気合いで何とか出来る」
と言うネガティヴなイメージをうつ病の人に持たせてしまいます。
うつ病の人は、往々にして自尊心が低まり自罰的ですから、
「どうせ私の病気なんてたいした事ないんだ、怠けているだけなんだ。」と思わせてしまうのです。
そもそも、うつ病は風邪どころの騒ぎではありません。
心身ともに衰弱し、生命力を削ぎとられる恐るべき消耗性疾患なのです。
例えるならインフルエンザを1ヶ月以上引き続けるようなものです。
もっとも、「うつ病は心のインフルエンザ」などと言うと新たな誤解を招きかねませんが。
心の風邪などと言うおためごかしは、当人にも家族にも辛いものになりかねない危険がある訳です。
この度は2つの例を挙げましたが、他にも風評被害になりかねない、
うつ病常識標語のようなものは沢山あります。
どうか、うつ病の周りの方がメディアの宣伝に踊らされるのではなく、
病気の正しい知識や患者さんご自身のコンディションやお気持ちに心を向けて下さいますように。